信州長野発のよい物、よい体験、よいつながりを共有するプロダクトブランド[SYN:]。発起人である長野の靴下メーカー・株式会社タイコーの神田一平さんと世界的に活躍する梶原加奈子さんがどのように出会い、どんな思いでブランドを立ち上げたのか。【前編】では、おふたりの対談から、これまでの経緯とブランドコンセプトに込めた願いを紐解きます。

プロフィール/

[SYN:]ブランドオーナー
神田一平
(株式会社タイコー代表取締役社長)
1978年長野県生まれ。大学を卒業し、写真や映像、メディア媒体全般を取り扱う企業へ従事した後、導かれるかのようにものづくりの会社、タイコーへ入社。2015年代表取締役就任。大学機関と研究開発に力を入れて技術革新を進める一方で、アーティストやデザイナーと積極的にコラボし、自社発信プロジェクトを立ち上げている。「自分に何ができるのか」を考え、「生まれ育った信州をみんなに知ってもらいたい。ディープ長野を楽しんでもらいたい」をモットーに変化する時代と向き合い、本業も強化しながら長野の未来をつくる事業に挑戦している。

[SYN:]ブランドディレクター
梶原加奈子
(株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO 代表取締役)
北海道生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。株式会社イッセイミヤケ・テキスタイル企画を経て渡英。王立芸術大学院RCAにてMA取得。2006年帰国後、札幌と東京を拠点に(株)KAJIHARA DESIGN STUDIO設立。国内外でクリエイティブディレクター&テキスタイルデザイナーとしてブランディングや商品企画に関わり、札幌の自然のなかに複合施設COQを立ち上げる。日本のものづくりの継承を考えた活動や未来に向けて新たな価値観を創造することを通して、テキスタイルの持つ豊かな可能性を暮らしのなかに提案している。
http://www.kajihara-design.com

心身ともにすこやかな、長野の暮らしや文化に共感してもらえるブランドを

神田
私は2015年に先代から4代目として経営を引き継ぎましたが、そのとき、何代目かの後継者はどうしても創業者より思いが薄いため、ただ事業を引き継ぐだけではいけないだろうとの思いがありました。そんな危機感から何か新しいアクションを起こそうと、まずは当時、信州大学医学部と医療用靴下の開発をしていたつながりから、ドイツで開催されるメディカル系の展示会に参加したんです。
そして、世界で戦うためにはものづくりの技術だけではなくブランド力が重要だと感じ、今回、世界的に活躍するテキスタイルデザイナーの梶原さんに協力をお願いしました。

梶原
私のブランディングはいつも、最初からデザインを提案するのではなく、まずはその会社の志やキャラクター、社長の考えなど、会社がどう動くかというイメージを共有させていただきます。今回もそこにかなり重きを置いて話し合いました。具体的にいろいろなビジュアルを見ながら神田社長の言葉を引き出し、キャラクターを掴むことに時間をかけたのです。そして、タイコーという会社は発明が好きな研究家のキャラクターだと感じ、メディカル分野にも長けていることから「ラボ」というイメージを受けました。

そのあと、新しい時代に取り組むことは何かを考えたときに、仲間や人とのつながり、人と遊びながらつくっていく関係性を神田兄弟(社長の弟で常務取締役の卓実さん)は好きなのだと感じ、そういうつながりは大事にしなければいけないと思いました。
また、「長野を応援したい、長野の活性化、長野のいまを今後の未来にどうつなげるか」を考えているとわかったので「長野」が重要なキーワードだと感じ、できるだけ意識をそちらに向けました。
そして、インターナショナルなブランドにしたいという神田社長の思いを汲むと、国内のマーケットに合わせた手法ではなく、世界で生き残るための徹底的に強いハードが必要だったことから、現時点でタイコーの強みである靴下の開発を第一弾のプロジェクトとして 始めました。

神田
長野を盛り上げたいという思いはずっと意識していたわけではなく、たぶんドイツの展示会がきっかけです。メイド・イン・ジャパンは世界に誇れる技術だと思っていたのにあまり重要視されていないと気づいたのですが、同時に、ドイツ滞在中に改めて「日本っていいな」と思ったんです。ただ、海外の人にとっては日本=東京というイメージですが、東京ではないな、と。むしろ、長野の田舎で朝起きたときに感じるスッとした最高の空気感を多くの人に感じてほしい、おすすめしたいと思いました。
一方で、私と同じように何代目かの経営者で新しいことをやらなければいけないと思っていても、一歩踏み込めずに困っている人たちの窓口にメーカーとしてなれたら、多くの人に喜んでもらえるのではないかとも考えたのです。そして、長野にもっと多くの人が遊びに来てほしいという気持ちが芽生えたことを梶原さんと話しました。
さらに、長野について調べていくといろいろな技術や伝統工芸があり、幅広いことができることもわかったのです。

梶原
伝統工芸の未来も考えられているところは、私自身が全国各地の職人さんたちと新たな布を生み出している活動とも重なり、非常に関心をもちました。そこで、まずは思いに共感してくれる人が集うブランドにしていきたいという未来像から、「シンパシー(sympathy)/共感」という言葉に固執しました。ものではなく感覚が共有できるイメージです。
そこからシンパシーの「シン(SYN)」という言葉がシンバイオシス(symbiosis/共存)などさまざまな単語の語源になっていることがわかり、その言葉を中心に添えると「信州」「心身」「森羅万象」などいろいろな部分で長野にあるものに関わると感じたのです。そこにコラボレーションという意味と「シンの感覚と一緒に動く」という余韻を残すイメージからコロン(:)をつけ、[SYN:]という言葉をもとにコンセプトを考えていきました。
また、長野に関わるようになって気づいたのが、長野の人は健康に対する意識が高いということ。お茶をたくさん飲んだり、食べ物も健康的で身体の中から気持ちがいい。そこで、私は長野の印象を「健康」と捉え、「心身ともにすこやかな」というプロダクトを長野でつくるという法則が次第に決まっていきました。

神田
当社がつくっている靴下も、カジュアル路線やメディカル分野、スポーツソックスなど心身に関する枠組みだったので、その話に共感しました。

梶原
私もタイコーがもともとバランスソックスや血流がよくなるソックスなどの健康靴下を開発していることにも影響を受けました。血流などを研究することが足元の場合は健康につながると感じたのです。そんなふうに、最初は「優しい」とか「使っている人を癒せる」という方向性を考え、そこからアートディレクションやコピーライトなど、人に伝えるツールについて動き出しました。 デザインやコピーについては外部スタッフを組ませていただきました。

まずは、アートディレクターの植原亮輔さん。もともと一緒にブランドをつくった経験があり、私の世界観を理解してくださる方で、同じ北海道出身で、緑を思い浮かべたときに感覚的に同じように緑を思い浮かべられる方。感性がクロスするので、あまり言葉を使わなくてもイメージを理解してもらえ、想像を超えた心を動かすデザインを生み出してくれる一方で、ロジカルにも組み立ててもくださいます。

そんな植原さんに声をかけさせていただいたところ、プロデューサーに長野出身の小山奈々子さんをご紹介いただきました。
小山さんはもともと知り合いではありましたが、個人的にマインドフルネスの活動や人をつなぐイベントをされていたので、今回のプロダクトの主旨に即した方だと感じ、総合的なアドバイスももらえる共有者として加わっていただきました。

さらに、コピーライターの国井美果さんに声をかけさせていただきました。国井さんともいくつもブランドをつくった経験があり、言葉の感覚や何かを見たときの感性が非常に近くて、且つ、それをとても穏やかな空気感のある言葉で表現していただけます。一緒に何かをつくっていてホッとする安心感があります。

[SYN:]は男女ともにターゲットにしたブランドですが、アクティブなど男性っぽさもありつつ、若干女性らしさや疲れた男性への優しさを込めています。そこで、言葉や写真で柔らかい表現ができる植原さんと国井さんにお願いし、そこから神田社長とのつながりで長野のクリエイションチームが広がっていきました。

そして、昨年11月にチーム全体でアウトドア目的に一回集まり、試作のウールの靴下の履き心地や気持ちよさを全員で確かめ、アクティビティの靴下はスポーツをする方にも履いていただいて感覚を確認しました。こうした苦労も重ね、どのようにお客様に伝えていこうかと練ってきました。

(後編へ続く)

撮影協力:オーガニックリゾート、FARM&CAMP Re:HAKUBA
撮影:小野慶輔、鈴木良治、金井真一
取材・文:島田浩美
取材日:2019年6月15日

  • Facebook
  • Twitter